高校野球時代の相棒に顔面を強打されそうになったお話
天井から僕の顔面をめがけてピンポイントで落ちてくるグローブ、照明器具。
当たりどころが悪ければ失明していたかもしれません。
早朝6時頃、今日は目覚ましよりも早く目が覚めました。
重たい瞼をパチパチさせながら、心地の良い布団の温もりを感じながら、
いつもと変わらない天井を僕はぼんやり眺めていました。
ベッドの頭側と左側は壁にくっついています。
右側には身長180cmくらいのクローゼットが僕の目線の真横くらいの位置にくっついていて、肩から下と足側は開放的になっています。
僕が寝返りをしても、横幅1mほどしかないシングルベッドから落ちないのは、そのクローゼットに守られているからかもしれません。
僕はそのクローゼットの上についついガサばる物を置いてしまっている。
・中くらいの空のキャリーケース
・高校生の時に部活で使っていた野球のグローブ
・大好きな漫画の全巻が詰まったダンボール箱
・使っていない机の上に置くような照明器具
・残り4箱のティッシュ箱
など、これでもかー、というぐらいに積み上がっているのです。
前から、
「これ、寝てる時に落ちてきたら、顔に直撃するな・・・」
とは思っていました。
ただ、地震の時しか落ちてこないだろう。その時は、咄嗟にこうやってこうガードする!、となぜか自信満々に対策をイメージしていたのです。
実際のところは、クローゼットの上に積み上がった物を片付けるのが面倒くさかっただけです。
今朝のことです。
「ん?」なんか揺れている?
という感覚で目が覚めました。
(僕はよく周りが気づかないような小さな揺れの地震でも目がさめることが多いです。)
少しだけど、やっぱり揺れている・・・。
と、地震の”あの”独特な揺れを感じていると、徐々に揺れ幅が大きくなってきました。
震度2から4になっていくイメージでしょうか。
ウゥン、ウゥン、ウゥンという小さな揺れの間隔が、
ウゥーーン、ウゥーーン、ウゥーーンという感じで、大きく力強くなってきたのです。
「だいぶ強い揺れだな・・、大丈夫かな・・・」
とちょっと不安になってきていましたが、その不安は的中してしまいます。
今度は、さっきの揺れ幅のまま、揺れのパワーが強くなってきたのです。
さっきよりも力強く、さっきよりも揺れのスピードが早くなりました。
ブゥーンっ!ブゥーンっ!ブゥーンっ!ブゥーンっ!
と左右にリズミカルに激しく揺れて、自分の体もそれに合わせて動くようになりました。
その瞬間です。
予期していたことが起こるのです。
そう。クローゼットから僕の頭めがけて物が落ちてきたのです。集中砲火です。
まず1番手で落ちてきたのが、小型の照明器具。
いざそこから物が落ちてくるとなると、なぜが鮮明に思い出されるイメトレでの対策。
まるで、幼稚園児〜小学校低学年くらいの男の子が「ガード!」と言いながら、二の腕を縦に2本構えるのと同じようなポーズで、イメトレ通りに顔面付近をガードで固めました。
「カシャンっ!」
難なく照明器具のガードに成功。
上に置いていたのが小さめの照明器具でよかった。そこまでのダメージはありません。
僕は自分が立てた対策が思った以上にうまくいって、軽く悦に浸っていました。
その間にも、地震がグワングワン猛威をふるっている。
アパートの部屋の壁が薄いため、両隣の部屋からもガシャン!ドンッ!といった音が壁越しに少し聞こえてきます。
「我がゆく。」
と次に上から飛び降りてきたのは、グローブが入った黒い巾着袋だ。
僕と高校野球時代の3年間を共に戦ったミズノの外野用グローブがしまわれている。
・キツかった夏休みのアメリカンノック(うちの野球部で伝統のめちゃくちゃキッツい外野の守備練習)
・夏の大会の2回戦、1点リードの9回裏の2アウト二、三塁。一打サヨナラの場面でダイビングキャッチで掴み取ったウィニングボール。
どんなときも一緒に頑張ってきた相棒。
そんな相棒に顔面を狙われていたのです。
強い揺れの中で僕は思いました。
「さすがにこいつが顔面に当たるとヤベー。。絶対にガードせねば!」
早くベッドから起き上がれば良かったのですが、僕のプライドと眠気がそれを許してはくれませんでした。
グローブが落ちてきたのに反応して、また瞬時にガードの構えをとりました。
次の瞬間。
「ボンっ」
という、鈍い音が部屋に小さく響く。
あなたもご存知、鈍くて小さい音の時ほど、実は痛い。
さらに、その袋の中には、部のものをこっそりパクった硬式ボールが2、3個入っていた。
想像していたよりも、ジワーンと響く二の腕の痛みを感じながら、あの時イメトレしておいて本当に良かったなと、僕は考えていました。
「さあ、次はどいつだ?もうなんでもかかってこい!」
と心の中で言って、絶対に顔面を守る、と意志をさらに強くしたところで、
僕は目が覚めた。
僕は・・・。目が覚めた。
小さな揺れを感じて目が覚めて、強い揺れとクローゼットの上の猛者たちと戦っていた夢から覚めたのです。
すごくリアルな夢で、完全に現実だと思っていました。
少し胸がドキドキしているのを感じながら、良かった、と一息つきました。
もう僕には、夢から覚めて、今観ている現実が、本当に”現実”なのかどうか、わからなかった。